鸛を追う #4

地域の健康センターで受診し、そこから大学病院に転送してもらう。大学病院の初診まで、待って、待って、待って、待った。大学病院から連絡が来たのは、健康センター受診から実に5ヶ月後だった。

その5ヶ月の間にも排卵検査薬や基礎体温表を見ながら挑戦し続けたが、実らなかった。毎月そわそわし、生理が来ては落胆する。精神的に参ってしまい、子供服やベビーカー、妊婦さんや赤ちゃんを見るのが辛くなっていった。何せできることがない。待てと言われれば待つしかない。今度こそ、今月こそという期待は捨てきれず、結果が伴わないこの未受診期間が、今までで一番苦しかった。

今回の記事では、なぜここまで待つのかについても含め、フィンランドと日本の医療を比較しながら書いていく。不妊治療の保険適用の話題もホットなので、費用の件でも知っている範囲で書いていこうと思う。

まず、フィンランドには私立病院と公立病院の2種がある。私立病院は文字通り法人で、費用は高いがサービスも良い。私が調べた限りでは、不妊治療の初診も一週間後か二週間後には取れるというくらい迅速に受診できる。会社勤めの人は会社でこういった私立病院の受診料が保険カバーされていることが多いが、不妊治療についてはカバーされないことが多いのではないかと思う。(自営業の場合も保険が降りるそうだが、私は自営業ではないので詳しいことは分からない) 因みにフィンランドで私立クリニックと言えばチェーン展開する大きめな法人という印象で、日本のような個人の開業医のクリニックなどは見たことがない。私が知らないだけなのだろうか。所謂「山田医院」みたいなものは目にしたことがない。

一方で、フィンランドで言う公立病院とは大抵の場合がその県唯一の大学病院になる。総合病院であり、先に述べた健康センターで対処しきれない疾病や怪我は、基本的には全てこの公立の大学病院にて処置される。急を要さない場合、待ちに待ちに待つ。患者の数が多いので当たり前かも知れないが、それにしても待つ。

公立病院の場合はもちろん私立より受診料は安いが、日本と比較すると決して安いとも言えない。北欧は医療費が無料なんて言説が出回ることがあるが、フィンランドに関しては嘘である。(ただし未成年は基本無料だ)
私の住む地域の大学病院の外来受診料は、41.20€。日本円にして5,100円ほどであり、固定である。日本のように処置によって変動することはなく、行くたびにきっかり41.20€の請求書が来る。その場で払わず請求書が後で郵送されてくる。病院の名前が入った封筒を見つけると、41.20€の出費だ…と思うわけだ。週に2回通院したりなんかすると、82.40€の請求書が来て、ほぇーなどと言いながらアプリで支払う。

日本の場合はクリニックの殆どがフィンランドで言う私立クリニックに当たるのではないかと思う。Google検索で上位ヒットしたクリニックの価格を参考にすると、日本のクリニックでは例えば卵胞チェックが2,400円ほど、人工授精(AIH)が24,000円ほどということだったが、フィンランドの私がかかっている大学病院の場合はその全てが41.20€、つまり5,100円だった。例えばある月の私の人工授精周期を見ると、3回の卵胞チェックと1回のAIH施術で、5,100円×4=20,400円。これが日本の場合は2,400円×3+24,000円=31,200円となる。

さらにここに薬代が入る。私はこの周期は経口の排卵誘発剤レトロゾール(30錠35.56€≒4,400円)、自己注射用のゴナールエフ皮下ペン300(一本117.80€≒14,600円)を2本、そして同じく自己注射用のhCG注射Pregnyl5000の薬液(13.45€≒1,660円)で総額の薬代は約285€≒35,280円となり、公立病院での人工授精周期の一カ月の不妊治療費は総額59,280円、6万円は行かない程度だった。

私は卵胞が思うように成熟せず薬代がかなりかさんでいるが、同じ処方を日本で受けた場合は薬代が29,000円ほどとなり、薬代はフィンランドの方が高かった。理由は分からないが、恐らく物価の問題で、ゴナールエフ皮下ペンがフィンランドのほうが高い。自分でお腹に打つのだが、一定期間は毎日打つのでペンタイプでないと難しいということもあり、それ以外の選択肢はなかった。(hCGの自己注射は古き良き?シリンジタイプだったが、月に一回なので怖くとも痛くとも頑張れる) 財布は痛いが、薬代は年間上限を超えると残りは払い戻される。2020年の年間上限は577.66€なので、実際薬代がかかるのはAIH2周期分ちょっとといったところだ。

長々と書いたが、人工授精周期を比較した場合、日本では60,200円と6万を若干超えるものの、フィンランドとそこまでは変わらないのではないかと思う。

しかし、これが体外受精(ここではIVFの話をする)になると話は別のようだ。私は今のところはIVFはしたことがないが、IVFの施術であっても代金が固定だというブログ記事を見つけた。このブログを書いた方の地域では外来診療の固定費が37.20€≒4,600円であったそうだが、採卵も移植もこの4,600円で済んだようだ。最終的な費用は、IVFの計画のための診察2回、卵胞チェック、採卵、そして移植の4回受診で186€(≒23,000円)+薬代506€(≒62,600円)の692€≒85,600円であったとのことだった。2019年4月の記事なので、大まかな価格は変わっていないのではないかと思う。

体外受精となると、日本の場合は桁が違う。クリニックの言い値なので変動が大きいが、一回でおよそ300,000円はするところがほとんどのようだ。私は日本で治療をしていないので詳しい方がいたら教えて頂けると嬉しいが、コンディションによっては100万円かかったという意見も読んだ。(体外受精とのみ記載されていたので、顕微授精かどうかは分からなかったが)

つまり、高度不妊治療以前のタイミング法や人工授精に関しては日本もフィンランドもほとんど価格は同じか、タイミング法に限っては恐らくフィンランドの方が高額であるが、日本では高度不妊治療になった途端に価格が跳ね上がり、フィンランドの公立病院の場合はそこまで跳ね上がらないということだろう。

ただし、フィンランドでも公立病院で不妊治療を受けるためには条件がある。私の通っている大学病院の条件は、39歳未満で、BMI35未満、そして子供が一人以下であるというものだった。つまり、2人目不妊までは公立にかかれるが、3人目以降は私立しか選択肢がないということだ。私立の場合はやはり価格は日本と似たようなもので、上記のブログには「私立では体外受精は6,000€(≒750,000円)かかった」というようなコメントもついていた。公立は私のように半年待たされるということがざらなので、6周期も無駄にできないという場合は私立が選択肢に上がるのだろう。

日本の不妊治療は高い。しかし一方で、きめ細やかなサービスであるとも思う。フィンランドの公立病院では毎回の診療でホルモン値を測ることもないし、いつも同じ先生というわけではないので私の場合は医師の言うことがコロコロ変わることもしばしばである。初診を除き目視で卵胞を見るだけなので、原因となりうるAMH値などは見ないのだろうかと不安にもなる。公立病院である以上、文句は言えまい。

以上、主観をできるだけ挟まずにフィンランドと日本のクリニック事情について比較してみた。それぞれ課題はあるかと思うが、どこの国でも子供を望む方が、経済的に逼迫しすぎることなく授かることができることを願ってやまない。



※このブログの内容はリアルタイムの話ではなく、過去のメモ書きの内容を時系列を追って書き起こしています。ブログ記事を公開した時点で妊娠が成立している可能性もあります。予めご了承ください。



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